京都四条木屋町の表具商松江堂は、三十年の暖廉を誇っていた。主人の市松はずぼらで気が弱く、女房の登代は世渡り上手の女丈夫で、店のきりもりはいっさい彼女一人でやってきた。登代は大学を卒業した次男令吉の花嫁候補を、西陣の織常の娘久子に決めた。さっそく祇園のお茶屋翁屋の女将で、市松の母つねを訪ね、仲人を頼んだ。登代は自分の離れに住んでいるスミに出てもらって、そのあとに令吉夫婦を入れようとした。スミは市松が小僧時代に世話になった店のお内儀で、夫の死後、戦争にいった息子一夫の帰るのを待っていた。市松は登代の考えに真向から反対した。そんな時、一夫が中国からひょっこり戻って来た。一夫は市松の弟成次が区会議員に立候補するので、そこの事務所に傭われることになり、スミと二人で登代の妹辰江の家の二階に移った。登代の冷い仕打ちに、娘の宏子は心を痛めた。そして、秘かに一夫に恋心...
夏の日の箱根。首相と会談を終えた米特使一行の帰路を、テロリストの一団が狙っていた。一行の車が近づき、手榴弾が投げられようとした一瞬、空から一台のヘリコプターが急降下し、一人の男がテロリストたちを狙撃した。滝村憲--米諜報機関工作員、銃の名手である。ある日、来日中の**貿易促進使節員楊が、米大使館に逃げこんだ。楊の逃亡をたすけた憲は、その夜、**側の工作員三宅に狙撃された。憲は反射的に弾丸を避けたものの、それは通行人を負傷させていた。有村沙織がその人だった。憲は女工作員薫に手当の依頼をすると、次の任地で北朝鮮からの密入国者を射殺した。所持品から**側のスパイであることが判明、逃亡した楊との関連に、疑惑が持たれた。拷問の末、楊は自分の目的が、東京で武器商人ローズと武器買入れ交渉をすることにあった、と自白した。彫刻家沙織と再会した憲は、傷の代償としてモデル...
山間の小駅。午前二時を指す時計のかかった待合室には、水害で列車が立往生、足止めを食った乗客がたむろしている。重役夫妻、男女学生、老夫婦、オンリーの夏子、田舎娘など、色々な人がごった返す待合室の隅には、乳呑児を抱えた時枝が、ひっそりと佇んでいた。そして、その傍には一本の手錠でつながれた刑事と殺人犯の森がいた。宿屋のない土地とて一同はバスで次の駅へ出ることになる。しかし行手には山崩れの峠道と八時間の暗夜の行程が待っていた。その上、出発を目前に、二千万円を奪って逃げた二人組の銀行ギャングが、この方面に立回ったという情報が入った。乗客は動揺、バスの人数は半分に減った。残った十四人を乗せバスは不安と恐怖とともに進んだが、漸く夜が明けかけ一同ホッとする。しかし時枝の表情は何故か暗いまま。やがてバスは壊れかけた橋を危うく渡るが、そのドサクサに時枝が姿を消す。全員が...
井伊大老暗殺の江戸末期を舞台に、殺伐たる世相を描く剣と情のロマン。原作は大佛次郎の同名小説。
Set in the late Edo period of the assassination of Dairo Ii, the sword and emotional romance that depicts the murderous world. The turmoil of the end of the Edo period is depicted through the nameless Ichii people, centering on the main character of the Hatamoto collapse that is drunk by the waves of the end...