津軽海峡に臨んだ貧しい漁村に生まれたアヤ子は、タラ釣り船に乗っていた兄を海で亡くし、漁師の父松吉が病気で稼げなくなると当然のことのように、大浦の町の遊廓「七福」に売られていった。それから数日、アヤ子は町一番の材木間屋の主人山村勘助に水揚げされた。そしてまた幾日かたったある夜、アヤ子は戸田勘二郎という童貞の客をあげた。荒い気性ではあったが、ひたむきで純情な勘二郎にアヤ子は惹かれていった。だがこの勘二郎は、他家に養子にいったため姓はかえていたが、水揚げされた山村勘助の息子であった。これを知った勘二郎はさすがにいたたまれず、アヤ子から遠ざかっていった。そして春も終るある日「二年まってくれ」と言い残して勘二郎は入隊し、戦火の大陸へ旅立っていった。勘二郎が出征した後も、勘助はアヤ子のもとに連日のように通ってきた。アヤ子はそんな勘助に憎悪を感じながらも身体は強烈...
棚下照生の長編劇画「めくらのお市物語」
"めくらのお市"は、娘を尋ねて旅をする老人仁平をやくざから助けたことから、ふと自分の境遇を思い出した。お市が、雷の閃光を受けたのは七歳の時、母親が彼女を捨て去った雨の日だった。以来十年、お市は弥助に拾われ、幸福な日々を送っていた。だが、弥助も伝蔵一味に殺され、途方に暮れてしまった。お市が弥助の墓前で一味に襲われた時、彼女を救ったのは、浪人の浮田だった。浮田は、お市に居合い剣法を教えたが、彼女が自分に想いを寄せるようになると、赤い仕込杖を残し姿を消してしまった。それからお市は、母探索と弥助のかたき追討の旅に出た。道中、仁平の娘およねを見つけたお市は、彼女の身受けをするため、上州屋の賭場で博奕をうった。お市は、その日政五郎親分とサシの勝負をしていた好敵手お文のイカサマを見破り、賭場は大混乱した。一方、仁平は、およね...