「一緒に住まないか」という言葉とともに、麻友子は恋人の智樹から合鍵を手渡された。彼との仲は良く、これといって不満もない。しかし麻友子は「結婚なんて考えたこともない」と言い残し、カフェテラスを飛び出してしまうのだった。その衝動に自ら戸惑いながら歩くうち踏切にさしかかった彼女は、今しも線路に飛び込もうとする男の姿に気が付く。とっさに男を押しとどめる麻友子。「余計なことをするな」と叫ぶ男の顔を見て、彼女は驚く。それは顔見知りの永山だったのだ。家庭を顧みることのなかった彼は、妻に愛想を尽かされたばかりか、経営する会社を部下に乗っ取られ、絶望の只中にあった。捨て鉢な様子でふらふらと歩き出した永山を心配し、麻友子は後を付いて行く。その時、どこからともなく読経の声が。その音に誘われるように2人は山門をくぐり…。
『大沢家政婦紹介所』所属の石崎秋子(市原悦子)が今働いているのは全国に門弟数百万人といわれる茶道家元の名門叶家。家元の叶秀旦(山下真司)と夫人の宮子(姿晴香)、一人息子の秀一(松尾敏伸)、それに秀旦の母茂子(香川京子)の4人家族だが、屋敷には何人もの内弟子がいる。内弟子は、家元に代わって雑事一切を取り仕切る“業頭”と呼ばれる筆頭内弟子から、下働きの男衆“庭人”まで、はっきりと分かれていて、内弟子の間では、業頭になることが最高の目標だという。現在の業頭は、長沼青庵(磯部勉)で、秀一は本当は青庵の子供ではないかというウワサがあるのを秋子は知る。
そんな秋子が恋をした。相手は庭人の水野文造(林隆三)で、一人黙々と庭の手入れなどの雑用をこなす文造の誠実な姿に、秋子は自分の境遇を重ね合わせながら、次第に惹かれていく。