フランス帰りの新進デザイナー小柳亜矢は、パリ仕込みの奇抜なデザインで大阪の女性をあっと言わせた。意気揚々、彼女はその夜の列車で東京に向った。偶然隣りに乗り合わせたスポーツで鍛えあげた逞しい体の建築技師篠原練太郎の足を踏んだのも気がつかない興奮の仕方であった。それでも練太 郎が、亜矢が花形デザイナーとして紹介されている週刊誌をこともなげにまるめ、駅弁にパクつくのを見て、柳眉を逆立てるのだった。数日後、亜矢が日ごろ可愛がっている女子短大生篠原加奈が、亜矢の入念なデザインの服を兄に散々酷評されたと仕立直しにやって来た。ちょうど居合せた亜矢の弟、大学のフットボール選手の武志はどれでも好きなのをもってゆけよと加奈に言って、すっかり仲好しになった。ところがこれを知った亜矢はカンカンになった。……挙句、加奈の兄のところに押しかけたが、意外にも兄とは練太郎のことだっ...
政子はナイトクラブ“ゴールデンスラム”のマダムだ。クレー射撃場で秀夫と知り合う。彼は画学生で、射撃コーチのアルバイトをしていた。純情だった。帰りに早速、車に乗せてやり、接吻した。秀夫の姉はクラブのショーダンサーの良子だった。芸能倶楽部も主催し、秀夫が一人前の画家になる日を夢見ていた。画家の宮原と好き合っている。彼は妻と離婚し、良子を迎えようとしていた。--政子には夜の生活がむなしかった。清算しようと思っていた。秀夫には姉から仕送りを受けることが苦痛だった。二人はこの恋を育て、それをそれぞれの転機にしようと思い始めた。--クラブの持主牧村は政子をわがものにしたかった。孤児の彼女を今までに仕立てあげたのが彼だ。この日中ハーフはクラブをゆずることを政子にもちかけ、彼女の気をひいた。良子も政子の夜の生活を知るにつけても、この年上の女に弟を取られたくなかった...
英一と京子は城南大学の演劇部で一緒で、恋人同士である。それが、今度の公演で、恋人同士の役を振りあてられた。彼女の父宏二は貿易会社の社長だ。妻を早くなくし、聟養子の身を姑春子に気兼ねして独身のままである。好き合う小唄の師匠田村ますがいるのだが、仕事振りに似合わず弱気である。京子は父の運転手の口から、父の秘密をかぎあて、英一と一緒にますの小唄の弟子になりすます。彼女は一目でますに好意を抱く。ますには引退した落語家の父仙之助がいた。株屋の若旦那浅井がますの弟子だった。仙之助は彼がますの結婚の相手だと京子にほのめかした。京子たちは父を成功させるために、浅井を牽制することにした。ますの身代りに京子は浅井とつきあい、誘惑する。危いところで、英一が現れ、やっと京子を連れだした。宏二は友人の風見と高原へ猟に出かけることにした。“シャノワール”の踊子ネリ...
ハヤテはダービーから除かれた。スタートに並ぶと暴れて手がつけられなくなるので出場停止をくったのだ。馬丁の平造はくやしかった。平凡な血統の中に傑出した名馬の素質を見出している平造は、若い馬丁や調教師の愛情が足りないためとその日からつきっきりで調教を始めた。スタートに立っても暴れなくなったハヤテは、やがてレースに出ることになった。今度は新進騎手の中でもっとも嘱望されている水木信吾を乗せることにした。三番手についていたハヤテは第四コーナーで一躍トップに躍り出た。しかしゴール前百米で本命のハナホマレに抜かれ、遂に最後尾となってしまった。馬主の小西は、ハヤテを売る決心をした。平造は反対し哀願したが無駄だった。平造はその夜ハヤテを汽車に乗せ、生れ故郷の大和牧場へと逃げた。この失踪は関係者をあわてさせた。次女の花枝と孫の一馬が迎えの使者に立った。“ハヤテ”と叫ぶ一...
進一は実業家進藤嘉六の先妻の子である。義母のますのとうまくゆかぬ。父にも反抗的である。夏休みに、進一は富士のふもとの湖畔にキャンプしたが、同級の照夫とその恋人ヒロ子らに会った。照夫と喧嘩したとき、仲裁に入った女--ユリエとも知り合った。彼女は死んだ実母と同じ名前である。再会を約した。帰京すると、進一は父と喧嘩し、学校をやめて自活することにした。ユリエは彼をジャズ喫茶店“コタラジヤ”の店主アレクス篠田に紹介した。彼女がその店内の装飾をしたことがあるのだ。アレクスは進一を引受けたことを種に嘉六に店への融資を迫った。嘉六は進一に黙ってそれを引き受けた。進一はボーイをするうち、店の人気歌手がギャラの不満で出演を渋ったとき、その代りに舞台に立った。彼の歌に場内はわき、ちょっとした新人歌手が誕生したことになった。一同はその夜、祝杯をあげた。--照夫はヒロ子との...
輸出向けの新車を製作中のホンダモータースに働く堺和男には商業デザイナーの晶子という姉があった。その晶子が奇しくもホンダモータースが募集した海外宣伝ポスターに一等当選した。賞金は十万円、和男の喜びも大きかったが、彼に好意を寄せる厚生課の本田洋子も一緒に喜んでくれた。この洋子、実は社長令嬢ながら一社員として厚生拡充に力を入れているという変り種である。一方、晶子も入選の喜びを分ちたい唯一の男性があった。同僚の野中良介である。二人は次の日曜日、良介の家でお祝いをすることを約束した。その日曜日、良介は晶子を待った。が、晶子は同じころ洋子の父本田社長の招きで入選祝賀会に出席していた。晶子は良介のことを気にしつつも祝賀会の雰囲気を壊すわけに行かなかった。祝賀会には金山という男も出席していた。本田社長は金山を洋子の許婚と紹介した。一瞬、和男は愕然としたが、その後...