健三、滋の兄弟はビルの窓を磨くガラス拭きである。健三はかつてはやくざの世界でならした男であったが、いまは一粒種の康夫を中心に明かるい家庭を築いていた。ある日、ビルの置時計が盗まれ前歴を調べられた健三はクビになった。折も折、もといた山田組から小谷の使いというチンピラの透が来て、帳簿をみて貰いたいという。小谷は現組長山田を抹殺しボスの座に直る企みであったが、稼ぎのなくなった健三には札束が魅力だった。彼等の巣窟の地下室で健三は脱税のための帳簿をつくってやり、その後チャイニーズモーゼルの射ち方を教えてくれと頼まれ、標的の麻袋を鮮やかな早射ちでぶち抜いた。その夜健三の部屋には久しぶりに明かるい笑いがもれ、滋は恋人の朝子と仲の良いところを見せてひやかされていた。その頃、山田のアパートの前に蜂の巣となった山田の死体がおかれ傍にはチャイニーズモーゼルが落ちていた。康...
昭和十八年。戦局はすでに日本の不利に展開していた。父の戦死の報をうけた浜村真吉は嘆く母や恋人の三保を残し、学友の田川や内藤とともに土浦の海軍航空隊に志願した。土浦での苛烈な規律と訓練のなか、田川が練習機で墜落死した。やがて、同期の桜たちとともに、海軍飛行少尉を拝命した真吉は鹿屋基地に配属された。ここでの特攻教育はさらに厳しいものだった。その頃、三保が真吉に逢いたい一念で、准看護婦として、海軍病院へやってきた。彼女の烈しい愛に、真吉は困惑したが愛するがゆえに不幸にすることはできないと、出撃するのだった。だが、皮肉にも彼の機は故障し、傷ついて病院に運びこまれてしまう。病室の窓から次々と飛び立つ特攻機をみることや、懸命に看護する三保の存在は真吉に重くのしかかった。傷が癒えた真吉は、歴戦の勇者秋山少佐の部隊に編入された。この部隊の機はすべて母機を離れたら最後...
ここは東京下町の工場地帯、ピカちゃんの愛称で呼ばれるひかるは貧しい人たちの味方三原医院の看護婦さんだ。今日も健康診断で森田製作所を訪れたひかるは工員たちの人気者。なかで人一倍ひやかされるのは、ひかると夜間高校で机を並べる勝利だ。そこへ乗りつけた新入り運転手の留次もひかるに目をつけた。その夜、定時制高校の帰り道、肩を並べて歩くひかるにいつもの勝利の口ぐせが始まった。「オレはスカッとしたサラリーマンになるんだ」しかしひかるはちがう。「幸せってもっと身近に転がっているんだわ」一方、留次は休診の日を狙ってひかるを誘いに行ったがものの見事に振られた。ひかるは勝利と先約があったのだ。折も折、留次の母親花子がひとり息子のために、見合い写真をゴッソリ持って上京してきた。留次に三拝九拝されて、ひかるは花子の東京見物の案内をした。ところでひかるが、母親につきそって田舎に...
みなし子の竹内ミカは、職探しの途中、これも花田組の幹部になりたくて機会を待つ純と、保に会った。彼らの友人の警官青木の紹介でスーパーマーケットに勤めが決ったミカは、優しくて、気持の明るい人が出て来たら結婚しようと心に決めていた。一方純と保は、ふとした機会にマーケットに勤める三島宏と知り合いになった。意気投合した純は、数日後宏を訪ねたが、チンピラ風のスタイルの純を見た支配人は、いい顔をしなかった。が純とミカはいつか親密な交際を始めていた。一方宏もミカに好意を寄せていた。ある日、純は万引して来たスカートをミカにプレゼントした。同じように、古い毛糸で編んだ手袋を贈られた純は、自分の不純な贈物に悩んだ。数日後純との約束の日、会社の慰安旅行に出たミカを、純はオートバイで追って来た。そんな姿をみてミカは自分が愛していたのは純だと初めて覚った。数日後、保はやくざの争...
大学医学部助教授松浦亮輔は研究に没頭し、世事にうとく、妻ゆき子は家計が苦しく、内職に精だした。亮輔には三人の娘がいた。長女智恵子は工場の栄養士、次女都紀子はタイピスト、三女久美子は速記者志望の高校生。娘たちは父が仕事のために母をかえりみず、母があまりに従順すぎるのに不満だった。ある日、都紀子は社長に呼ばれ、父を研究主任に招きたいといわれた。話を聞いたゆき子は、夫が仕事を金で売るはずがないといった。智恵子の恋人で医学生の中田は、およそ恋愛に不向きなタイプだが、そんな彼を亮輔はほめるのだった。久美子は男の級友たちと人形芝居の巡回に行くのを父に反対されて大ムクレ。都紀子は友人のパーティに行き、酒を飲んで帰った。父は都紀子を叱った。日頃のウップンを都紀子は父にぶつけた。お父さんはお母さんや、私たちの気持をちっとも考えない、横暴だわ。亮輔は都紀子を殴りつけた。...
逗子の浜辺を解放されたようにはしゃぎ廻わる梓。天翔ける青春の女神像のような神秘な美しさが、何か悲しそうな影をひめていた。梓が退院したのは昨日のことである。喜ぶ梓を前に修平をはじめ、姉の梢も暗い面持であった。それは退院真際に院長の言った、「出来るだけ患者をいたわってやって 下さい」という言葉が重かった。風光の良い逗子に居を移したのもこうした家族の思いやりであった。お手伝いの“さと”と毎日過す梓が、ある日表の掃除をしている時、誤って高校生に水を浴びせてしまった。恐る恐る垣根越しに詫びる梓は、振りむいた高校生に胸をドキリとさせた。彼は逗子高校のヨット部員富田一夫であった。二度目に一夫を見たのは、父修平を迎えに行った帰りだった。顔を赤らめる梓。茶目ッケのある梓は元気を取り戻して、単身、姉の婚約者山上を訪ねて上京した。その間姉の梢は、梓にあてられた多くのラブレ...
マンションに、愛犬ゲバラと同居していた。里見の一日は近所のスナック“さよこ”にコーヒーを飲みに行くことから始まる。“さよこ”には経営者のさよ子と、芸大に三度目のアタックを試みるさよ子の兄、花咲順が住んでいた。今日も二人はそろって予備校に出かけていったが、例によって授業もそこそこに教室を逃げだし、ガールハントに街へ出た。そこで二人がでくわしたのは予備校生にエロ写真を売りつけていた友人の東雲が、ショバ荒しだとチンピラに乱暴されている姿だった。風呂屋の息子、東雲は、家人のスキを狙っては、苦心さんたんし、ヌード写真を撮っては友達に売りつけていたのだった。かくしてトリオができあがり、何か面白いことをやろうと意見が一致して、めいめい好みの女をハントに出かけていった。里見は元公爵の孫、綾小路君子を、花咲はおかまの新子をハントし得意満面だったが、東雲は君子に家が風呂...
沢田多喜子は集団就職の一員として、級友新二郎、武雄、吉夫、信子、かね子らと上京し、安川家のお手伝いさんとなった。その夜、多喜子を迎えた安川家の晩餐は、多喜子の無邪気な明るさで、これまでになく和気あいあいたるものになった。主人儀一郎、妻弓子、長男三郎、長女澄子、それにばあやといった安川家の人々は、この多喜子の明るさを心から喜んだ。そんなある日、一緒に上京した喜子の仲間たちは日比谷公園に集り、各々の仕事や私生活の話に花をさかせた。その日多喜子は吉夫が借りて来た車でドライヴを楽しんだが、途中、信子と武雄が将来を誓い合った仲だったことを知って驚いた。多喜子は武雄に密かな好意をよせていたのであった。一方安川家では長年働いていたばあやがやめて、多喜子は益々忙しくなったがそんな中にも多喜子は、三郎や、澄子の相談相手となって、いっしょに悩み悲しんだ。が、そんな時、多...