北多摩警察署の留置場から五人の男が脱走した。強盗並びに轢き逃げ容疑の川本をはじめとする、守田、桐ノ江、金森、山口らである。彼らは看守のすきをみて天井裏から脱走、主謀者川上の誘導でタクシー強盗をはたらき、林の中へ逃げこんだ。西山警部補は妻亡き後、男手一つで育ててきた息子の弘を、強盗を働き単車で逃走する川本にはねられ、いまだに昏睡状態を続けているので、憎しみは人一倍。何としても逮捕しようとやっきである。林の中の川本は四人を残し、着替えの衣服と食糧を物色するため友人のところへ出かけていった。しかし待ちかねる四人の前に帰ってきたのは及川と称する川本の友人で、川本はそれっきり姿を現わさなかった。しかたなく四人は及川が持ってきた衣服に着かえたが、主謀者を失った四人はまごまごするばかり。つぎつぎと四人は逮捕されていった。一方林の中から姿を消した川本は、友人宅で衣服...
終戦間近の昭和20年7月、茫洋たる熱河砂漠の真ん中にある平邑という街に唯一人の日本人曾田力という青年医師が居住しており、満人をはじめロシア人の病人や阿片中毒患者たちの治療に精根を傾けていた。ある日、曾田は奉天の色街に娼婦として売られていた可憐な満州娘馬華香を救い、奉天の有力者元井社長の協力によって彼女を魔窟から連れ戻した。元井社長は以前、曾田に命を救われたことがあり、彼は曾田に対してかけがえのない恩義を抱いていた。
華香は曾田と共に平邑へ帰ってきたが、貧しい彼女の生家は華香を心よく迎えようとはせず、あまつさえ日本人を憎悪する華香の姉の秀麗は、曾田へ冷笑さえ浴びせるのだった。
華香は、曾田の許で看護婦として住み込むことになった。そんな頃、平邑に来たロシア人の旅行者ロスキーが発病した。ロスキーを診察した曾田は、そこで、石田と名乗る日本人と対面した。...
明治四十年の春、賭博行為禁止条項を含む新刑法が帝国議会を通過した。困惑した関西、関東の親分衆は至誠愛国を旗じるしに日本大同会を結成しようと動き出した。会長には天神一家の清水の口ききで柳瀬子爵をかつぎ出した。そして、結成式の世話人に小田原酒勾一家の半次郎が指命されたのだが、関東筑波一家の坂上は、この世話人選定に疑問を持った。というのは、清水の娘婿の三島の山形一家が、東海道線開通でさびれた三島のかわりに、地の利のよい小田原を狙っていたからだ。これは、坂上の娘浪江と結婚することになっている半次郎の部下伊之助の心配することでもあった。やがて結成式の日。案の定、半次郎は、清水一派に難くせをつけられ、自ら刃物を抜いてしまいなぶり殺しにされてしまった。その上、酒勾一家は一年間の謹慎を、日本大同会の総会で言い渡されたのである。ひっそりと半次郎の通夜をすませた伊之助た...
不法入国のかどで黒人サムは外国人収容所に入れられたが、趙、パーカー、十三号の同房者はそれぞれに一癖も、二癖もある連中だった。なかでも、正体不明の東洋人十三号は腕っぷしが無類に強く、係官も手を焼いていた。サムは強奪した二百万ドルのダイヤを基地の火薬庫に隠していたが、この秘密を十三号にうちあけて協力を頼んだ。サムの恋人春子が朗報をもって面会に来た。彼女はキャバレーで働いていたが、ボスの高木が力を貸すと申し入れてきたというのだ。収容所の見取図が手に入ると、十三号は一同に脱獄プランを打ちあけた。「床に穴を開けて下の病室へ抜ける。病室の床のタイルをはずして二米ほど穴を開ければ下水道に出られる。下水道の壁は高木に破壊して貰う」作戦通りに工作は進んだ。そして決行、四人は病室の白人女アンともども下水道で高木達と合流した。一同は高木の別荘で基地の地図を囲んだが、宝石が...
名だたる北海刑務所にバッファロウゲンと名乗る無頼の手品使いが送られてきた。六年間のアメリカ監獄生活で十二回も脱獄したという豪の者であった。桁外れの馬吉とファンキー小僧も彼には一目置かざるを得なかった。三年前馬吉は、親分のサンライト工業社長毒川が横浜の縄張り争いから立花組の組長立花を射殺した罪をかぶって刑務所入りしていた。そして息子一郎の将来を毒川に託していたのだったが、一郎は刑事殺しの犯人として捕えられていると新聞で知った馬吉は、何とか真犯人をつきとめようとして同房のファンキー小僧と脱獄を計画していた。これを知ったゲンは馬吉に力を貸すことを約束、手品の調子で鮮やかに脱獄した。三人は、秋田北陸と厳重に張られた捜査網を次々と突破、日本アルプスの山小屋に身を隠して横浜潜入のチャンスを窺った。若いファンキー小僧は小屋の管理人の孫娘である道子といつしか想い...
土地のやくざ仙三は弟分の留吉らを連れて、競争相手のやくざ弥太の受取るはずの荷物を先取りした。それは、香港から来た船から海中へ投ぜられたものであった。警察に、そのうちの一つが取得者から届けられ、田村警部や坪内警部補らが動きだした。中身が麻薬、ピストルなどだったから。仙三は、弥太の用心捧をやっているバー「ミモザ」へ遊びに行った。留吉はみどりという女を張りにダンスホール「オリオン」へ。どちらも同じ経営者だった。「ミモザ」にはりゃんこの政吉という妙な男がいた。やくざらしい。弥太はこの男が気に入り、仲間にしようと思った。仙三の帰途を、弥太の手下が襲い、留吉は危く逃れたが、仙三は死んだ。そのとき駈けつけた坪内も死んだ。その妹さと子はダンスホールで働いて犯人の動静を探ることにした。田村の頼みでもあった。ダンスホールのマダム、マリはみどりが都築--マリの夫であり、ホ...
球団のスカウトといえば人買いの親類みたいに見られ、スカウトの私も片腹痛いのですが、これもファンの皆様に面白いゲームを見て頂きたい一心からです。そこで私は慶早大学の百万弗バッテリーの谷、野本の両君を狙ったのですが、それが何と申しましょうか、まあ聞いて下さい。--谷、野本の二人は卒業と同時に、各球団の誘いも断り大東鋼材に会社員として就職してしまったのですがこれが、ある日、二人はクビになったとのニュース。その理由というのが、社会人として生きようという二人に会社が無理矢理、産別野球大会に出場させて大勝、祝い酒に下戸の二人が酔っぱらって川へ飛込み新聞種になった。二人が課長に叱られているところへ、かねて谷に想いを寄せる社長の娘銀子が谷に、「野球以外はゼロ」といったのがカチンと胸に来て遂に自ら会社を飛出したというわけです。さて私の方は、ここがチャンスと二人を我がホ...