横須賀の外れにあるドライブイン“サウスーポ”。経営者のとし江は、元プロボクサーの恋人風間敬一の死後、女ひとりでこの店を守ってきた。風間の親友の山本はとし江に想いを寄せていたが、その彼も、風間の死とともに、とし江の前から姿を消してしまった。今ではとし江にとっての生きがいは、恋を捨て、青春を捨てて守ってきたこの“サウスーポ”だけである。居候の弟久、従業員の留吉と八重子夫婦、現代っ娘の笑子など、ここの住人はお人好しばかり。そして、この店に集ってくる、久の友人たち、笑子の恋人、客のトラック野郎たち、暴走族……みな各々、生活を持ちながら、何となく寂しい野獣たちである。ある日、風間が所属していたジムの会長がとし江を訪れ、この“サウスーポ”を売却したことを告げた。会長にはこの店の開店の時に出資をしてもらっているが、この突然の立退き命令に、とし江は怒った。そ...
旅から旅へさすらい、喧嘩の修羅場に命を張る一匹狼--房州無宿御子神の丈吉。渡世人はその名を聞いただけで恐れた。ある日、丈吉は、足の生爪をはがして高熱を出し、宇都宮の茶屋の娘、お絹の手当てを受けた。ところが、このお絹を如来堂の久兵衛と開雲の長五郎が張り合っており、無理矢理お絹を連れ去ろうとするのを、丈吉が邪魔をする。仕返しを恐れたお絹を丈吉は連れて土地を離れた。--三年後。お絹との間に一粒種、小太郎をもうけた丈吉は、武州本庄宿で細工師として堅気の暮しをしていた。ある日、丈吉は仕事で宇都宮を通るが、久兵衛と長五郎に捕われ残酷な私刑にあい、左手の薬指と小指を潰されるが、お絹と小太郎のことを思い耐え忍ぶのだった。だが、その頃、久兵衛と長五郎の子分たちが、当時追われていた、国定忠治を逃すために本庄宿で、忠治と落ち合っていたが、偶然、お絹と小太郎を見つけ惨殺し...
兇器のように強靭な肉体を持つ西神勇次は、通称シニガミと呼ばれ恐れられていた。二年前、傷害事件で刑務所にぶちこまれ、いま、やっと仮釈放で出所した。この勇次を出迎えたのは、意外にも初対面の直と名のる青年だった。直は自ら裕福な家を出て、マリファナの密売に手を出していたが、最近取り引で失敗し、時価三千万円のマリファナと相棒の修平を強奪されてしまった。勇次に近づいたのは、彼の野獣のような力がマリファナと修平を取り戻すために必要だったからだ。こうして勇次のもとの恋人笑子と、直のトリオが出き上った。勇次と直の捜査の結果、友愛互助会と、サソリと異名をとる殺し屋の姿が浮び上って来た。サソリの忠告を無視して動き回る勇次たちのもとには修平の服をまとった血にまみれたマネキン人形が届けられた。もはや修平の死は間違いなかった。勇次たちと友愛互助会との抗争は激しくエスカレートして...
大阪の夢見通り商店街に春太は住んでいた。詩人志望で教材のセールスをしているが性格はお人好し。頭が大きくずんぐりむっくりで容姿に自信はなかったが、向かいの美容院で働く美人の光子に恋していた。ある日タバコ屋が地上げに絡んで暴走族に壊され、一人暮らしのトミ婆さんがショックで入院した。付き添って看病してくれた春太に息子の面影をみた婆さんは、財産を春太に譲るという遺言を残して死んだが、その紙切れは人目につかず掃除婦のおばさんに捨てられてしまった。中華料理店を営む広瀬家では夫婦喧嘩が絶えず、いつも春太が仲裁していた。また、パチンコ屋の娘理恵が妊娠し、相手の質屋の息子哲太と駆け落ちしたときも、二人がまだ高校生だったので、よき理解者として相談にのってやった。しかし、自分のこととなると駄目で、なかなか光子に気持ちを打ち明けられない。ようやく光子に故郷を連想させる波...
一度は堅気の生活に入った無宿人御子神の丈吉であったが、妻子を惨殺され、ふたたび渡世の道へと戻り、仇である国定忠治とその仲間を追って復讐の旅をつづけていた。仇の一人長五郎が、潮来の榎松一家の花会に出席しているのを知った丈吉は、ドスを片手に花会に乗り込むが、多勢に無勢、簀巻きにされて利根川に放り込まれてしまった。老漁師と疾風の伊三郎に救出された丈吉は、なおも仇を求めてさすらう。ある日、丈吉は矢代の梅蔵親分に、かつて丈吉が恩を受けたことのある韮崎の重三郎親分の家出した娘お雪を重三郎のもとまで送り届けるようにと依頼され、丈吉は承諾する。最初はいやがったお雪だが、丈吉の真心に次第に柔順になっていった。ところが、以前丈吉に眼をつぶされた巳之吉が現われ、お雪を犯し、連れさろうとした。さらに、丈吉が巳之吉の投げつけたドスをたたき落したところ、そのドスは弾んでお雪の胸...
風俗嬢の「女」が九州弁丸出しの精神科医と電話で会話をしている。会話の中身によると、かつての同窓生だったゲイの「男」の社会科教師が退職して彼女のマンションに転がり込んでくるのだそうだ。女と男は高校時代はべつに交友も無かった。同窓会で、女が風俗嬢をやっていることを皆に告げたときの偽善的な空気に抗議するために、男が突然席をはずして女装して戻ってきた、という事件があり、その日を境にした交流だった。
社会の外れ者である二人に仄かな恋のごときものが芽生えたように見えたころ、男の恋人(もちろん男性)が追いかけきた。男は女の部屋を出て、マンションの廊下で応対するのだが、次のような二人のやりとりを女は聴いてしまう。
男の恋人「あの女が好きになったのか?」 男「いやだよ、あんな汚い女」
風俗嬢の「女」が九州弁丸出しの精神科医と電話で会話をしている。いつもと変わらぬ様子。...