十津川警部の部下橋本の婚約者が、元暴力団員たちに凌辱される事件があった。橋本は自殺した彼女のために辞職。男たちを自ら裁き、網走刑務所に服役していた。それから2年、橋本は仮釈放の前日、所内で事故死した男の遺品を東京の小田切という男に渡すよう所長から頼まれる。橋本は、小田切と下り特急「富士」の車中で会うことになったが、車中で殺人事件が発生。橋本も襲われ、遺品の手帳が盗まれる。
病気がちな妻のほかに、地位も財力にもなにひとつ不自由のない、経済雑誌の壮年社長土居広之は、山の温泉宿でふと行きずりに屋代幾子という女を知った。幾子は銀座で宝石商を営む六角庫吉の妾であった。六角は前の女の子供を幾子に引きとらせるなど、その態度は横暴をきわめた。しかし不幸な境遇から六角に救われた幾子の忍従の生きかたに、広之は心惹れるのであった。広之はせっせと幾子が六角からまかされている煙草屋に通った。また親友の大学教授岸や、バーのマダムに応援を頼んだが、幾子の態度は変らなかった。六角は幾子と広之の交渉を知って、彼女を打擲した。幾子はそこで初めて自分の生活をたて直す心を決めた。そしていつしか幾子の心の中にしのびいっている広之に相談した。広之は快よく幾子に職も家もみつけてやった。そして彼女への激情は押えがたく、二人は伊香保へ旅行する約束をした。ところが当日妻...
在日華僑総社の会長呉天童の一人息子竜馬は、いたって純情な青年である。中古のコンソルを買うために貯めた貯金が二十万円ある。まだ二十万円足りない。友達のサキ子がシャンソン歌手になるといいだし、喫茶店「キキ」で、後援会をこさえたり切符をさばいたりするのに忙がしい。「キキ」のマスター宍倉もマネージャーを買って出た。サキ子は父親の貞造をくどき落すのに竜馬と宍倉に同行を頼んだ。竜馬が呉天童の息子だと聞くと貞造の風向きが変った。神戸にいる竜馬の叔父呉天源は大商人だった。バナナ仲買人として年に二五〇カゴ扱っている貞造にとって、四〇〇〇カゴもの輸入許可証を持っている天源は羨望の的であった。権利を少しわけてくれるように頼めば、二十万のリベートを出すと言った。コンソルが買える。竜馬は天源を訪ねた。一八〇〇カゴの輸入許可書をくれた。竜馬はサキ子と自動車の中古市へ行ったが、コ...