明治三十年代の大陸を相手に景気が出始めたころ、北九州の港湾には人間のあらゆる欲望がぎらぎらと沸き立っていた。そうした門司港へやって来た二十六歳の玉井金五郎。がっちりした体躯、精悍な眼差しは野望に燃えていた。早速とび込んだ博打場で、彼はたちまち着ている物まで剥ぎ取られる破目になったが、壷振りの女が「いつかあたしに彫らせてね」と囁いた。その時女の袖口から、牡丹に蝶の刺青が真白な腕にくっきりと浮き上っているのが見えた。浜尾組の仲仕となって働くようになった金五郎は次第に頭角を現わしていった。そのころ北九州一帯を襲った上海コレラにもびくともしない彼を、女仲士のマンはいつか想うようになっていた。人一倍勝気なマンが、いま旭日昇天の勢力を持つ吉田磯吉親分の客の望みをはねつけたことから、吉田の子分達に襲われた。すぐさま抗議に乗り込んだ金五郎は、素直に謝まる吉田の豪放な...
銀座で救いを求められた女にアパートへ誘われたキャメラマン槙健策は、そこで五十男の屍体にぶつかった。逃げようとした時、すでに女は部屋の鍵をかけて立去っていた。警察に連行された槙は昨夜の女とそっくりの女に会った。殺された男石垣の秘書高垣静といった。槙は記者の須川と共に事件の究明を始めた。彼は静に接近し、あの夜の女の脇の下にあった痣の有無を調べようとした。それには失敗したが、二人は互いにひかれ合った。ある日、謎の女から救いを求める電話がきた。約束の場所へ着いた槙は拳銃を持った男達に取り囲まれたが、パトロールカーの到着に危く難を逃れた。須川はその時静の部屋のシャワーの音をたしかめた。謎の女は静ではないのか?槙が死体の側で拾った真珠のイアリングは天道立命教の会員章だった。この秘密麻薬結社は秘密を知った槙を車で誘拐し、監禁した。そして彼の体と引きかえに、彼に恋す...
『必殺スペシャル春一番 仕事人、京都へ行く 闇討人の謎の首領!』(ひっさつスペシャルはるいちばん しごとにん、きょうとへいく やみうちにんのなぞのしゅりょう!)は、1989年3月30日の木曜日20:00 - 21:48に、ABCと松竹(京都映画撮影所、現松竹撮影所)が共同製作テレビ朝日系列で放送された時代劇。主演は藤田まこと。
必殺シリーズの長時間スペシャル第13弾である。
本作は京都を舞台とし、主水ら仕事人達が謎の多い闇討人なる闇稼業の者達と戦うというストーリーである。中村主水や鍛冶屋の政といったいつものメンバー以外にも、京都の仕事人として『新 必殺からくり人』ほか多数出演歴のある近藤正臣扮する元結の新吉などが登場する。
話そのものは京都御所の改修工事にまつわる不正と闇討人の暗躍、そして主水ら仕事人たちがその正体を暴くという筋立てであるが、...
場末の盛り場、ガード下に診療所を開いている杉浦健吉は、足を洗うことを条件にチンピラの傷の手当をしてやるような男であった。ある日、チンピラスリの三太が、ニューフェースの試験を受けるため戸籍を貸してくれとやって来た。苦笑しながらもこの申出を承知、区役所へ戸籍を取りに行った健吉は、自分の戸籍が抹殺されているのを知った。しかも届人は彼が長い間捜していた弟の忠夫となっていた……。その足で死亡診断書を書いた医者を訪れた健吉は死体処理の立会人として背の高いガッチリした男、にやけたやくざ風の男、背が低くて神経質の男、それに気違い女がいたことを知らされた。それともう一人、黒い男が……。また忠夫が銀座でキャバレーを開いていることも。「誰か一人、人が殺されている」健吉はこう叫ぶと、自分の墓のある伊豆へ出かけていった。彼はそこで、自分の墓に花をささげる美しい女を見た。ま...
佐渡金山から脱走した人足の鎮圧を目的とし暗躍する組織地獄組。その地獄組の手引きによって人足として働かされていた無宿人たちが脱走した。さらに無宿人たちはお上に差し出す献上金を積んだ船を占拠した。船を所有する金座後藤家では金相場への影響を懸念し、奉公人たちへ事件の口外を堅く禁じる。
後藤家に奉公するお浅は、思いを寄せる与七の船が海に沈む夢を見る。その朝お浅は、後藤家当主千勢の口からそれが現実であったことを知らされ、心乱れる。仕事人から足を洗っていた政は、与七の死を受け入れられず憔悴するお浅から、沖を見渡せる砂丘へ連れて行ってほしいと頼まれる。
やがて御用船沈没の噂と共に金相場高騰の噂が広まり、金の買い付け騒ぎが起こる。そんな中村主水ら仕事人は、同業の元締鎌イタチのおむらに呼び出され、御用船を占拠し沈めた無宿人たちの殺しを依頼される。頼み人は後藤千...
立花組の兄貴分月田圭介は縄張りの拡大には非情の男だった。今日も圭介は、貸金の期限が切れたことをよいことに、マダム貴子のバーパレスを乗取るため冷酷ぶりを発揮していた。更に彼は赤貧洗うが如き早瀬一家から三万円の金を取立てるため鬼のような振舞をした。が、受取った三万円が、早瀬の娘勝美が夜の女となって稼いだものと知ったとき、“情無用”の彼も暗然たるものがあった。翌日、勝美の父母は金を苦に自殺した。この事件と、勝美の転落の責任を圭介は自覚しないわけには行かなくなった。彼は勝美と会い、そして魅かれていった。その頃、立花組のボスの室に鳳組の八木が立花組は秘かに拳銃を入手している、と脅迫しに来ていた。ボスが聞きただすと、秘密をバラしたのは、貴子と関係する組の小山であることが分った。小山は圭介の弟分。圭介は小山と貴子を地下室に連れ込み仲間の黒沼とリンチを加え、その...
ある日、南町奉行所同心中村主水の同僚で隣家の主である同心清原が殺された。清原は舛屋なる両替商をゆすっていた。清原の妻、おこうは、舛屋の代理人、真砂屋を訪ね、彼が殺ったことを白状させる。真砂屋は先代の娘おこうに自分たちの世界に戻って来て欲しいと告げた。数日後、そんなことも知らず主水は、知り合いの後家、おしのに頼まれ、貯金の利息の取り立てに舛屋に出向いた。そこで彼は、舛屋の言葉から清原殺しが舛屋の手によるものらしいと気付くが、退散せざるを得ない。後日、舛屋の勘定人、彦松が自殺する事件が起き、主水は再度舛屋と対決するが軽く追い返されてしまう。そして主水に刺客が迫るが、仕事人仲間に助けられる。主水は真砂屋が仕向けた小娘、おゆみと親しくなり、妻の座を迫られた。その挙句、おゆみは「中村主水は人でなしだ」と捨てぜりふを残して、五重の塔から投身自殺をしてしまう。...