丸菱コンツェルンでは、同財閥で招待したアメリカ経済使節団の到着を明後日にひかえ、その準備に大わらわだった。本社では足利直義会長を中心に、赤穂産業社長浅野卓巳、丸菱銀行頭取吉良剛之介、若狭金属社長桃井和雄ら十八社の社長たちが集った。接待委員長吉良と委員桃井は贈物のことで論争し、浅野になだめられた。その夜、浅野はヨーロッパに出張する専務大石良雄の壮行会に出席した。席には浅野の愛人で芸者の加代次も加わった。帳場では秘書早野寛平と専務の運転手寺岡平太郎が待っていた。寛平には寺岡の妹でタイピストの隆子という恋人がいた。会が終って大石は浅野と懇談し、加代次との結婚をすすめた。若狭金属の角川専務は、桃川社長が吉良と口論したのを聞き、会社に災難がふりかかるのを思って吉良に彼の秘書伴内を通じて時価三百万円のヒスイを献上した。吉良はご満悦、が、加代次が浅野を好きだと知っ...
今日は、大安吉日。大阪天王寺駅を発った列車は、南紀方面に旅行する新婚組で超満員だった。専務車掌の並木大作は、目のやり場に困りながら職務の検札に廻っていた。その大作にも、ひそかに想いを寄せる女性があった。その相手は、新宮駅前の寿司屋の娘雪子だった。大作は暇さえあれば、「丸新」に立寄り、寿司を食いながら雪子を口説くが、いつも雪子の母で、未亡人のうめに邪魔をされていた。「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ」である。大作は気に入られようと、うめのご機嫌とりをかかさなかった。さて大作の家では、父親の甚吾が大作に観光船ガイドの靖子との結婚を勧め、大作は甚吾にうめとの再婚話をもち寄り、顔を合わせるごとに二人は、結婚の勧めっこをしていた。ところが、甚吾は年がいもなく、息子の恋する雪子に惚れていた。「丸新」へ愛の告白に出かけた甚吾ではあったが、話がどう行き違ったのか、う...